東京高等裁判所 昭和32年(ツ)71号 判決
原審は左記事実を認定して、被上告人が本件家屋の一部を訴外福田長及び西保に使用させたことは、転貸に該当しないと判断したことは上告人主張のとおりである。被上告人は老令の母と二人で本件家屋に居住していたところ、昭和二十七年一月頃から肺結核に患つて、老令の母では充分な看病もできないので、同年四月末から友人である福田長に依頼して子供二人と共に本件家屋の玄関の三畳の間に居住してもらつて、療養の手伝をしてもらい、その後福田長も肺結核に患り療養することを余儀なくされたので、更に知人の使用人である西保にその妻と共に同年六月頃本件家屋の台所側の四畳半に居住して療養の手伝をしてもらつていた。西保は感染をおそれて同年十月頃右部屋から、福田長も妻の実家で療養する目的で同二十八年四月頃右部屋から、それぞれ退去した。福田長は病気になるまで印刷所に勤務し、西保は銀行に勤務し、共に被上告人とは経済的に独立して生活していたが、被上告人は上記のように療養及び家事の手伝をしてもらつていたので、部屋代の支払は受けていなかつた。
民法第六一二条によつて賃貸人に解除権が与えられているのは、賃借人が賃借物を第三者に使用させることによつて、賃借物の使用の方法、態様、内容等に差違が生じて賃貸人の利益を害するおそれのあること等によつているのであるから、賃借人が第三者に使用させるさいに、必ずしも有償であることが必要でなく、無償である場合でも差支えなく、第三者の賃借物の全部又は一部の使用が、独立の用益者である地位を取得する程度のものであることを必要とするを相当とする。福田長と西保との上記認定の本件家屋の使用を独立の用益者としてのものでないとも断定できないが、被上告人が上記のような事情で福田長と西保との両名に本件家屋の一部を上告人に無断で使用させたことは、まだ賃借人の背信行為とは認められない。そうであるとすれば、上告人は福田長及び西保の両名に被上告人が本件家屋の一部を使用させたことを理由として、本件賃貸借契約を解除することができないものといわなければならない。
(柳川 村松 中村匡)